産学連携で進むレーザー加工技術の高度化
東京大学 物性研究所 所長・教授 小林 洋平 氏
半導体や先端デバイスの高度化に伴い、レーザー加工技術への期待が高まっている。
産学連携組織「TACMIコンソーシアム」を主導する東京大学物性研究所 所長/教授の小林洋平氏に、活動の狙いや注目技術、日本の強みと今後の展望を聞いた。
TACMIコンソーシアムの設立経緯と役割とは

TACMIコンソーシアムは、2016年から始まったNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」プロジェクト(2021年度終了)の実施者を中心に設立したものです。
設立後すぐに、プロジェクト参加機関だけでなく、他の企業にも会員として参加していただく形にしました。研究開発したレーザー装置を実際に試していただくという機能を持たせたのです。最初は23法人でスタートしましたが、翌年以降は毎月1社程度のペースで会員が増え、現在では約140法人が参加しています。
当初は、NEDOプロジェクトで開発された市場に出ていないレーザー加工機を試してもらうことが主な目的でしたが、現在では加工プラットフォームの提供に加えて、市場調査やロードマップ作成などの活動も行っています。
さらに最近では、会員間の意見交換の場として「TACMIX」という媒体を運営し、オンラインで週2回記事を配信しています。そこを通じて情報共有や議論を行っています。
役割としては、こちらから情報を発信するだけではなく、インタラクションを生み出すことが重要だと考えています。イベントなどを通して皆さんが直接話し合える場を作ることも大きな目的です。
TACMIの会員になるとNDA(秘密保持契約)を結ぶため、複数の法人間で一歩踏み込んだ議論ができるようになります。これは学会とは違う点で、共同研究がすぐにスタートできる環境が整っています。実際に4法人が参加する共同研究も進んでいます。
OPIEに対する期待と、今年のシンポジウムの特長について
TACMIコンソーシアムは2022年からOPIEに出展しています。展示会で一番大きいのは、異なる法人同士の対話がそこから始まることですね。
ブースには展示物だけでなくミーティングスペースも設けており、会員の皆さんにぜひ活用していただきたいと呼びかけています。実際に展示会場では、一日に非常に多くの打ち合わせが行われています。
展示会は新しい会員を増やす場にもなっています。TACMIを知らなかった企業の方が興味を持って話を聞いてくださり、毎年数社が新たに参加してくれます。
面白いのは、近くのブースの出展企業が参加してくれることが多い点です。展示会ならではの出来事だと思います。
またシンポジウムも毎年開催しており、立ち見が出るほど満員になることが多いです。テーマはその時々のトレンドを反映しており、最近は半導体分野などを取り上げてきました。2026年は少し志向を変えて、「光技術の未来」をテーマにした未来志向のシンポジウムを企画しています。半導体、AI、バイオ、照明など幅広い話題を扱い、高出力ファイバーレーザー光源とその応用についての講演も予定しています。
TACMIのシンポジウムでは、アカデミアと産業界が半々になるように構成しています。両方の立場の方にとって意味のある場にしたいと考えています。
先生が特に注目しているレーザー加工技術は

現在われわれが最も力を入れているのは半導体関連の加工です。もともと半導体の後工程におけるレーザー加工に注目してきましたが、日本は材料分野で非常に強いプレゼンスを持っています。半導体材料もそうですし、レーザーによる穴あけ加工などの技術でも高いシェアがあります。こうした強みを維持し、さらに拡大するためにはレーザー加工技術の高度化が不可欠です。
最近の大きな流れとして、半導体基板が樹脂からガラスへ移行しつつあります。チップレット構造が進み、小さなチップを多数搭載する大型基板が必要になってきたためです。従来のシリコン基板はコストやサイズの制約がありますが、ガラス基板であれば500mm角程度まで大型化できます。ただしガラスは透明で、レーザー加工が難しい材料でもあります。
どの波長やパルス条件が最適なのかを予測することはまだ簡単ではありません。本来であれば、材料の組成から最適なレーザー条件を予言できるようにしたいのですが、現状ではそこまで到達していません。産業界では実際にさまざまなレーザーを試して最適条件を見つけていますが、それは非常に大変な作業です。そこでTACMIでは加工プラットフォームを整備し、多様なレーザー装置を試せる環境を提供しています。特に深紫外短パルスレーザーを備えている点が特長です。さらにパルス幅や繰り返し周波数を可変できる装置もあり、さまざまな条件を試せるようになっています。
日本のレーザー加工技術の強みと課題をどのように見ているか
日本の強みとしてまず挙げられるのは材料です。材料開発は、それが加工できて初めて実用化されます。日本では材料メーカーと加工技術が近いところにあり、材料をすぐに試せる環境があります。これは材料メーカーにとってもレーザー加工メーカーにとっても非常に大きなメリットです。
一方で課題もあります。例えばドイツのフラウンホーファー研究所のような巨大な研究組織と比べると、日本の取り組みはまだ規模が小さい部分があります。経験や信頼という歴史的な積み重ねも含めて、もう少し大きな組織的活動が日本にもあれば良いと思います。
その意味でも、TACMIでは2026年4月から海外法人も会員として参加できる仕組みを整えました。海外との連携を進めることで、新しい展開が生まれるのではないかと期待しています。
レーザー加工技術は今後どのように発展していくと考えているか
大きな流れとして、レーザー加工はマクロ加工中心だったものが、ここ10年ほどでミクロ加工が注目されるようになりました。その背景には、短パルスレーザーの高出力化があります。出力が100Wクラスになり、高精度な微細加工が可能になりました。
かつては高価だと言われていましたが、半導体産業は「高くても良いものを使う」という市場です。その需要が、高付加価値のレーザー加工技術の発展を後押ししています。短パルスレーザーは熱影響を抑えて加工できる点が大きな利点ですが、出力が高くなりすぎると熱の問題が出てきます。この課題をどう解決するかは、今後アカデミアが取り組むべきテーマだと思っています。
TACMIとして今後取り組みたいテーマや活動構想はあるか
これまではレーザー加工やレーザー開発の関係者を中心に活動してきました。メディアや商社の方にも参加していただいていますが、今後はさらに異なる業界の方々にも参加していただきたいと考えています。
まだ限られた業種の中での議論が多いので、より広い分野の人たちと意見交換ができる場にしていきたいと思っています。
若い研究者やエンジニアに向けて、レーザー加工分野の魅力をお願いします
私はかなり本気で考えているのですが、日本の人口は確実に減少していく中、そのときに豊かな生活を維持するためには、全自動でものづくりができる社会を実現しなければなりません。その中心にあるのがレーザー加工機だと思っています。
ですから、若い人たちには「レーザー加工をやらなければならない」というくらいに考えてほしいですね。むしろやらない理由を見つける方が難しいくらい、将来のものづくりの中心になる技術だと思います。しかもレーザー加工はAIとの相性も非常に良い。どちらも成長分野です。レーザー加工市場は年率10%程度で伸びています。
人口減少社会の日本だからこそ、レーザー加工技術に目を向けてほしい。TACMIコンソーシアムもその一助になればと思っています。

